動物園のお医者さんからのメッセージ
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動物園のお医者さん

 旭山動物園には、園長を含め4人の獣医師が勤務しております。このうち、園内の現場で飼育動物の日常の健康管理に携わっているのは2.5人くらいです。大がかりな治療や引っ越しなどになると、4人の獣医師が勢揃いすることもあります。
カバやキリンの運動場の裏に動物病院があります。1階は診療室兼手術室と解剖室、2階は検査室になっています。
動物園獣医師の仕事、特に動物の健康管理について改めて紹介します。

 動物園のお医者さんは、犬猫などペットの獣医さんとは、病気の知識や診療の技術など基本は共通していますが、以下の主に3つの点で違いがあります。
予防接種(ライオンの子へのワクチン接種)


1. 予防医学
 動物園獣医師は、扱う対象動物が様々です。ヒト以外のすべての生き物と言っても過言ではありません。野生動物は、ペットのように人に慣れているわけではないので、病気やけがの治療は、ほとんどで麻酔が必要になり、時に困難を伴い、経費もかかります。
 また、動物園生まれの動物がほとんどですが、それでも家畜やペットと異なり、元々の野生魂を持っており、なかなか弱みを見せません。なぜなら、野生では、症状を表に現すときは死を意味するからです。
 このため、異常の発見が遅れて重症になってしまうことがあります。したがって、病気やけがになる前に予防することがとても大切です。ペット病院では、普通、飼い主が調子の悪いペットに気づき、病院に連れて来てから診察が始まりますが、動物園獣医師は、何よりも病気やけがにさせない予防に重点を置いています。
 例えば、トラやライオンは、年に1回麻酔をかけて健康診断と予防接種を行っています。また、こども牧場の動物やサル類などに対して検便を行って駆虫薬を与えたり、予防接種を行ったりしています。

2. チーム医療
 動物園の野生動物は、基本的に、飼育係になつくことはなく、信用することもありません。治療や移動のときに、じっとおとなしく辛抱して抑えられていることはありません。無理矢理押さえつけるか、麻酔をかけることが必要になります。動物園獣医師は、捕獲、保定、採血や治療などのときに、飼育係の協力にかなり頼ることになり、飼育係をトレーニングする必要もあります。しっかりと成熟したチーム医療が動物園の動物の健康を守ります。
獣医と飼育係が共同で行う病理解剖(サイ)

3. ゆりかごの前から墓場の後まで
 動物園獣医師は、動物の発情状態を検査で調べたり、人工受精のための精子を採取したり、動物が生まれる前から関わります。また、動物の死亡後、必ず病理解剖を行って死亡原因を調べ、次の健康管理につなげます。もし、死んだ動物が他の個体にも感染する病気であれば、いち早く予防対策を取らないと群れが全滅するかもしれないからです。
 さらに、解剖後は、剥製や骨格標本を作ったり、組織やDNAを保存したり(この保存タンクを冷凍動物園と言います)、貴重な動物の死体を最大限活用することになります。地道に集められたサンプルやデータは、野生下の同種仲間を守るために役立てられることになり、ずっと永久的に生き続けることになります。動物園獣医師にとって、死体にもエネルギーを吹き込んで生かし、地球から預かった貴重な命を将来に紡いでいくことが重要なのです。

 また、動物の健康管理の他に、調査研究や環境教育などの普及活動も重要な仕事です。身近な自然や野生動物の魅力を伝えるため、野鳥、草花や昆虫などの自然観察会も行っています。

 たくさんの命が暮らせる地球環境(生物多様性)が豊かで、人は地球からのサービスを受け続けられます。人と野生動物の間の架け橋になって、お互いが幸せな地球環境を残せることを願っています。動物園獣医師には、飼育動物の野生で暮らす仲間とふるさとも守る責任があり、一つの地球、一つの健康を守ることが使命だと思います。

旭山動物園における獣医師の仕事
・動物園動物の健康管理
 予防医学(検疫、健康診断、栄養管理、予防接種、駆虫)、治療、死因究明と対策のための病理解剖と疫学調査

・公衆衛生
 動物から人に感染する病気から来園者やスタッフを守る

・希少動物の繁殖技術開発
 希少動物や地元の動物の自然繁殖・人工繁殖

・傷病野生動物の救護・自然復帰と有効活用
 傷ついて保護された野生動物の命を救い,自然に帰す(2005年以降は中止)、自然復帰不能個体の活用(展示・繁殖、研究、環境教育)

・教育・普及活動
 園内の看板パネルとガイド、身近な自然を学ぶための環境教育ガイド、自然観察会、市民講演会、学会・論文報告、獣医学実習生の研修

・調査・研究
 動物の体のしくみ、機能、病気の診断治療法などの研究、野生動物の生態フィールド調査

・保存
 冷凍動物園(希少動物の死体・細胞・DNAや野生動物の糞・血液の保存)