動物園のお医者さんとは 動物のお医者さんになるために 野生動物を保護したときは 飼育係になるために
教育・ガイド

オランウータン釧太郎(センタロウ),安らかに・・・

オランウータンに感染していた大腸バランチジウム。


 わんぱく盛りの釧太郎(オランウータン,オス)は,僕がそばに行くといつも手をつかんで,「遊ぼう!」,また,その場から立ち去ろうとすると砂をかけて,「行かないでよー。」とだだをこねます。

 そんな彼は2000年7月20日頃から大腸バランチジウム症という病気と闘っていました。8月9日晴れた朝,当時担当者の高橋さんはいつものように「おーい,センタロウ,おはよう!」と声をかけ,彼に歩み寄りました。最近,彼は食欲がなく,治療も嫌で,麻袋の中に入り込んだまま,外に出てこない日が続いています。高橋さんは何とか朝ごはんを食べさせて栄養をつけさせなければ,熱があるかどうかチェックしなければ,と彼の背中をポンとたたいて,起こそうとしました。「センタロウ,起きれ。朝ごはんだぞ!」彼は大好きな高橋さんに,「ボクは眠いよ。起こさないで。」と…。享年7歳,あまりにも若すぎる死でした。

 大腸バランチジウム症とは,ゾウリムシのような単細胞生物が大腸に寄生して起こる感染症で,下痢を起こします。感染しているからといって必ずしも,症状が現れるとは限りません。 
 メスのリアンの下痢に続き,釧太郎は突然,下痢し始め,食欲がなくなりました。この病気の特効薬は大変苦いので,いくらチョコレート,はちみつ,ジュースなどに混ぜても,かしこい彼は見破ってしまい,薬を飲んでくれませんでした。ヒトのこどもと同じです。おさえつけて,無理やり薬を飲ませようとしても,力では負けてしまいます。しかし,薬を飲ませないことには治らないので,7月22日,麻酔をかけ,胃の中にチューブを突っ込んで薬を入れました。その後,下痢はおさまったのですが,次第に部屋のすみの方で震えたり,いじけたり,僕たちを避けるようになりました。食欲もなくなり,好きなバナナも薬がついていないか調べるかのように警戒するようになっていました。高橋さんは彼になんとか元気になってほしいと,一生懸命に看病を続けました。しかし,8月に入り,彼は眠る時間が増え,8月8日,力をふりしぼり,高橋さんにしがみついて「ありがとう。」とあいさつした後,次の日永遠の眠りにつきました。

 病理解剖の結果,大腸バランチジウム症の他に,細菌感染症を合併しており,これが直接の死因と診断しました。いずれも,健康なときならば,大きな問題とならない病気で,効く薬もあるのに…,大変ショックでした。今回のように,知能の高い動物ほど治療は大変やっかいなことで,症状を隠したり,薬を飲まなかったり,信頼関係がくずれることがあります。精神的な不安定状態と考えていたのが,後から考えれば,細菌感染症の始まりであり,実に苦い経験となりました。

 リアンは彼がいなくなって,甘えん坊になったり,少しひねくれ物になったりしています。彼女の心のケアも大切で,オランウータンがいかに僕たちヒトに近いか実感しました。釧太郎のわんぱくで,人なつっこい性格は僕たちの心にはずっと残りつづける。「センタロウ,いつも楽しませてくれて,笑わせてくれて,ありがとう。もう,おやすみ…。」 

 2002年4月23日,リアンの婿として,広島市安佐動物公園からオスのオランウータン(ジャック)を譲り受けました。このような動物園間で行う,希少動物を繁殖させるための受け渡しをブリーディングローンといいます。動物園は,地球上のさまざまな動物の存続を守る(種の多様性維持)ため,希少動物を飼育下で積極的に繁殖させることに取り組んでいます。飼育下繁殖は,彼らの生息環境が失われつつある中,緊急避難的に動物園間で種を維持し,環境が整ったときにいずれ野生に復帰させるという可能性を生み出します。

 旭山動物園は,希少動物の生息地外保全に力を注いでおります。リアンとジャックの間に待望の赤ちゃんが産まれる日を待ち望んでおります。

 ※ 2003年3月,2頭の間に待望の子供「もも」が生まれ、2007年7月30日に「モリト(森人)」が生まれております。
    2009年4月20日、「もも」は事故のため死亡しております。