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教育・ガイド

動物園の動物にもガンが多い!

アライグマの乳腺腫瘍.。

 今回は,動物園の動物たちの「ガン」についてのお話です。
 
動物園の動物は,家庭で飼育されているイヌやネコと同じように毎日安全で快適な飼育環境と栄養バランスのとれた食餌を与えられているので,長生きします。それに対して,野生動物は過酷な自然環境の中で生活しているため,捕食や事故などによって寿命を最大に全うすることなく若いうちに死亡する個体がほとんどでしょう。例えば,野生のキツネやタヌキならば3-5歳くらいの個体は生き延びている方だと思いますが,動物園で飼育すれば10歳近くまで生きる個体も少なくありません。同じ動物でこれだけ寿命の長さが違うと,死亡原因には「老い」という問題が影響してきます。ヒトと同じように,動物も老いて行くにしたがって「ガン」,「心筋梗塞」や「腎臓病」のような病気が増えてきます。高齢動物の死亡原因として目立って多いのが「ガン」です。
 
この4年間に,エゾリスの眼瞼にできた悪性黒色腫,ホッキョクグマの肝臓癌2例,ウンピョウとアムールヒョウの子宮筋腫,ヤマアラシの乳腺癌,フェレットの副腎腫瘍と悪性リンパ腫,エゾクロテンの骨髄性白血病などの腫瘍症例がありました。肺など他の臓器に転移したり,貧血を起こしたりして死亡する動物もいました。
 
次に,ハリネズミの腫瘍についてお話しします。1999年から4頭のハリネズミを飼育してきましたが,現在までに3頭に腫瘍が発生しました。1頭目は,後ろ足にしこりができ,手術で取り除きました。しかし,その5カ月後にのどの部分にしこりができて,手術中に安楽死しました。病理解剖では肺などに転移が見られ,しこりの病理組織検査の結果,甲状腺ガンでした。2頭目は,乳ガンができて手術しました。悪性でしたが,このガンの転移や再発はありませんでした。しかし,3カ月後に子宮のポリープのため開腹手術をしました。これら2度の腫瘍は手術で治っています。しかし,1年半後に腕にしこりができたため,断脚することは選ばずに安楽死しました。平滑筋肉腫という悪性腫瘍でした。3頭目は,子宮のポリープと乳ガンができ,それぞれの手術をしました。このハリネズミは,手術後半年近く経ちますが,転移や再発はありません。このように,ハリネズミのような小さな動物でも腫瘍の種類によっては,早期発見と正確な診断・手術によって克服できるのです。
 
ガンと聞くだけで「こわい」と思われる方もいらっしゃるでしょう。家族や飼育動物をガンで亡くしたり,ガンと闘病中の方やガンを克服された方もおられることでしょう。私は母をガンのため48歳の若さで亡くしました。また,大学では専門的な小動物のガン治療に携わっていましたので,ガンに対する思い入れは大きいのです。ですから,動物園の動物に発生したガン患者に対しても気合いをこめて向き合っています。医学や獣医学の進歩に伴い,ガンという病気は必ずしも不治の病ではなくなってきています。しかし,動物園動物のガン治療では,化学療法や放射線療法が困難な症例が多く,大型動物では外科療法は限られたものになってきますので,治療には限界がつきまといます。何と言っても抗癌剤を点滴するにも全身麻酔をかけなければならない患者さんがほとんどですから…。また,設備的にも動物園にはガンを診断するためのCT,MRI装置や放射線治療装置もありません。予後が厳しい動物は安楽死することも多々ありますが,動物園の健康管理を任されている以上,治る可能性があると判断した動物は最大限治療しております。これからもできるだけ多くの命を救えるように努力し続けて行きます。