動物園のお医者さんからのメッセージ
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スズメのSOS    
2010年に旭川の民家で死亡したスズメの死体 餌台の消毒について


 2010年も2月末に旭川市内でスズメの連続死が発生しています。
 スズメのSOSを受けて私たちがすべきことをまた提案したいと思います。

 スズメは、童謡やことわざなどにも登場するように、最も身近な野鳥と言えます。最近は、スズメが巣を作りやすい木造の建物や餌場となる草むらの空き地が減り、農業機械の発達と普及により落ち穂が出にくくなったなどの理由で、スズメの生息数が減ったと報告されています。このように、スズメは、私たち人間とともに暮らしてきたので、人間の生活様式に大きく影響されます。

 2005-2006年冬、旭川市をはじめ北海道内でスズメの大量死が発生し、1,500件を超える死亡報告がありましたが、行政対応が遅れ、野生動物を指標とした環境モニタリング体制の弱さを露呈しました。初動調査が遅れた中、複数の研究機関が調査に当たりましたが、死因究明は難航し、大量死を一括説明する要因は不明とされました。一部の死体の検査により、融雪剤やサルモネラ感染症などが死因の一つと報告されました。そして、2008-2009年、3年ぶりに旭川市を中心に再び小規模ながら集団死が発生し、旭山動物園による調査と上川支庁、上川家畜保健衛生所、麻布大学、国立感染症研究所および酪農学園大学との共同研究の結果、2008-2009年の集団死については人間が設置した餌台でサルモネラ感染症が広がったとわかりました(学会発表)。その予防には、餌台の自粛および衛生マナーが必要です。

 餌台は、野鳥を身近に観察でき、自然に親しめる一方、自分で餌を採れる野生動物を人為的に一カ所に高密度に集合させ、捕食者も引き寄せたり、感染症を広げたり不自然な環境を作り出してしまいます。

 私たち人間の自然認識あるいは暮らし方が身近な野生動物に影響を与えている事実は、重く受け止める必要があり、その予防対策としての餌台の衛生マナーは、常識的な情報として共有しておく責任があると考えます。これまで、旭山動物園は、園内の展示や講演会などを通じて普及に努めてきた結果、地域社会に認知が広がったと感じられる一方で、「スズメの大量死は、あのとき騒がれたけど、原因は結局何だったの?」という声も聞いてきました。その都度、対策が社会に十分に行き届いていないことを知り、スズメの大量死を未然に防ぐための努力がさらに必要であると考えてきました。

 今年も2月末以降、旭川市内の民家2件の餌台周辺で回収されたスズメの死体4羽を調査した結果、いずれもサルモネラが検出されました。現在の所、これ以上の死亡情報は集まっておらず、非常に散発的な発生にとどまっているものと推測されます。4年前、昨年ほど大量死や集団死に至らないのは、群れが免疫力を獲得してサルモネラに対する抵抗力をつけたことが考えられますが、旭川地域における私たちによる餌台の衛生マナーの呼びかけが奏功してきたとも思います。

 スズメも餌がなければ渡りますが、餌を出されればそこに留まって越冬します。人為的に餌台に集めて感染症を蔓延させることは避けなければなりません。餌台をしっかりと管理できないのであれば、野鳥や自然に迷惑がかかるので出さない方がよいでしょう。ましてや、無差別な餌まきは慎むべきです。餌台を置く場合、餌台の上も地面も毎日きれいに掃除をし、アルコール消毒することが最低限守るべきマナーだと思います。ちょっとした自然への思いやりがあれば、スズメは犠牲にならないでしょう。

 野生動物や自然への思いやりとは一体何なのか?
 
 人と野生動物の関わりにおいて、スズメの餌台の他にも、野生動物への餌やりは、その種、ペット・家畜、人へ感染症を発生させる可能性があります。他にも、キツネなどの野生動物への餌付けは、人慣れさせた結果、道路に出て交通事故の犠牲になりやすく、同時に人も事故に巻き込まれる危険性があります。また、餌やりで人慣れしたニホンザルやクマによる人の傷害事故などの野生動物問題も起こっています。いずれも私たち人間が野生動物に自己満足な優しさや思いやりをかけた結果、発生する野生動物の被害もしくは人間との軋轢です。

 野生動物のSOSを私たち人間が身近な野生動物や自然に迷惑をかけない暮らし方について考えるきっかけにしなければなりません。

関連リンク
  旭川でスズメ集団死、再び (平成21年2月22日)